離婚後の面会交流に子どもアドボカシーを導入するべき DVの元夫に「会いたくない」子の声が届かない現状
小林由比
(2022年2月17日付 東京新聞朝刊)
離婚後の面会交流に子どもアドボカシーを導入するべき DVの元夫に「会いたくない」子の声が届かない現状
小林由比(2022年2月17日付 東京新聞朝刊)
子どもの声を聴き、その意見を代弁する「子どもアドボカシー」の取り組みが広がりつつある。「子どもアドボケイト(代弁者)」と呼ばれる人たちが児童養護施設などを訪問し、子どもの話を聴く活動はすでに始まっている。こうした取り組みを、離婚後の親子の面会交流のプロセスにも取り入れるよう求める声が出ている。
長男は「会いたくない」のに裁判所は…
「長男は『会いたくない』と言っていると、必死に伝えたのに聞き入れられなかった」。関西地方で暮らす女性(37)は、ドメスティックバイオレンス(DV)を理由に離婚した元夫と、当時小学校低学年だった長男との面会交流を裁判所が判断するに当たり、長男の意思が無視されたと感じている。
元夫は結婚直後から「態度が気に入らない」と女性を一晩中正座させて怒鳴ったり、暴力を振るったりしたという。厳しく監視され「下着1枚も許可なしに買えなかった」と女性。元夫は長男にも「言うことを聞かない」と手を上げた。
「面前DVの影響でPTSD」と訴えても
長男が5歳の頃に離婚。母子で暮らし始めると、すぐ長男に異変が見られた。わずかな時間でも女性と離れるのを嫌がってトイレまでついてきたり、目が覚めた時に女性が隣にいないと「どこに行ったの」と泣き叫んだり。女性は「息子のことを受け止めるのに必死だった」と話す。
元夫が面会交流を求める調停を起こしたのはそんな中だった。小児精神科医や臨床心理士からは、長男の異変は暴力を目撃した「面前DV」などの影響による心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状だとして、面会交流を控えるよう求める意見書が家庭裁判所に出された。女性も家裁調査官の調査前に長男から「会いたくないと言って」と頼まれたという。だが、調査官や調停委員からは「面会交流はしたほうがいい」と説かれ、結局、2カ月に1度の実施が決まった。
「子どものために」という”決めつけ”
面会が始まってからも、長男はその場で「会いたくない」と言ったり逃げ出したりしたが、交流は続けられた。コロナ禍で現在は中断しているが、女性は「本人や同居の親の意見が聞き入れられないまま、いつまで続くのか」と不安がる。
DV被害者の治療に携わる兵庫県明石市の精神科医山田嘉則さん(62)は「面会交流は子どものためになると決めつけ、当事者の子どもの意見が聴かれていない」と指摘。「裁判所に子どもの声を届ける必要がある。小さな声に耳を傾け、その声を大きくするためのアドボカシーを導入するべきだ」と訴える。
100%子どもの立場で話を聞く、独立した存在が必要です
子どもアドボカシー研究会 副代表・栄留里美さんの話
子どもアドボケイトは、他の児童福祉の専門職からも独立し、100パーセント子どもの立場で話を聴き、その「声」を考慮するよう専門職らに働きかける。私たちの研究会はアドボカシーの理解を広める活動に取り組み、アドボケイトの養成講座も開いている。
児童養護施設などでアドボカシーを利用した子どもたちへのインタビューでは、ほぼ全員が「話を聞いてもらえてうれしかった」と答えた。「気持ちを聞かせて」と言われた経験が少なく、「言ったら怒られるかな」と周囲の反応をうかがい、本心を明かせない子どもも多い。自分の意見や気持ちを安心して表現するには、秘密を守り、あなたが伝えたいことだけを必要な人や機関に伝えるよ、という約束が守られることも重要だ。
2020年度から大分県などでモデル事業が始まり、養護施設や一時保護の場面などで導入されている。社会的養護を受けたり、両親の離婚を経験したりと、支援が必要な場面は多い。「子どもの権利条約」がうたう意見表明権の大切さを理解したアドボケイトの育成が急務だ。